弁造さんはユーモアを愛した人だった。
あるとき、弁造さんはあんたに見せてみたいものがあるといって、僕を丸太小屋の隣にある納屋に誘った。弁造さんは「ちょっと待っておれな」といって納屋に入っていくとしばらくして、毛皮の袖なしのコートを着て出てきた。
「どうじゃ、似合うか」と笑う弁造さん。そして次に出てきた言葉が、「このコートは、犬の毛皮じゃ」といってさらに大きく笑った。
僕が呆気にとられていると、「そこらへんにはおらんほどの犬好きのあんたじゃ。犬の毛皮のコートなんか見たら卒倒するじゃろうと思って見せたんじゃ。昔の北海道ではな、犬は食料でもあってな、食われたらこうして毛皮にされたんじゃ。昔はそんなことを誰も疑わんかった。どうじゃ、あんたも着て見るか。犬狂いの病気が治るかもしれんぞ」
僕は首を横に振り、笑顔で満面の弁造さんにカメラを向けた。
この2ヶ月後に弁造さんは逝くことになるので、考えてみれば僕がシャッターを押した最後の笑顔かもしれない。