ある日、弁造さんと「生きること」の細部について話した。
弁造さんは、人生というものは、すべてのことを自分の思い通りに生きようと思うことを拒否するというニュアンスの話をして、僕に見せてくれたのが、これまでに使ってきた歴代の入れ歯だった。
弁造さんは言った。
「入れ歯なんて、わしも一個あれば十分じゃと思っていた。でも、歳とともに口の中さえ変わっていく。たかが入れ歯ひとつ、生きていくためにはこれだけの量が必要じゃ。生きることって、そうそう簡単じゃなかろう」
弁造さん流のユーモアで語られた「生きること」。この写真は、生きることに近づくアプローチだと感じている。