10月も目前に控え、いよいよ秋の気配も濃くなってきた。
この時期を迎えるといつも思い出す風景がある。10月の終わりの弁造さんの庭だ。秋を迎え、雪が降るまで、緯度が高い北海道では独特の光に包まれる。
遅い夜明けから顔を見せた太陽は、正午近くになっても空高く昇ることなく斜めからの光を落とし、そのまま緩やかに沈み始める。午後の遅い時間の穏やかな斜光にも似た光が一日中続くのだ。でも、本州の夏の夕暮れ間近の光と決定的に違うのはその強さだろうか。北の地の晩秋の光は鈍重な気配で弁造さんの森や畑を照らしていた。
ある日、この晩秋の光に包まれた朝の庭で弁造さんを待っていたことがある。
その頃の弁造さんは、足腰が弱くなったことで電動の4輪車に乗り始めたばかりだった。
庭に遅い朝日が射すと、温度の変化からからよく霧がさした。その日も昇ったばかりの太陽を隠すかのように一瞬にして濃い霧があたりを覆った。
その霧の向こうから電動4輪車のモーターの音が聞こえてくる。
弁造さんが大切にしていたメープルは美しいシルエットで佇んでいた。僕はモーターの音を聴きながら、季節の流れと弁造さんに流れる時間の間にあるもについて、ぼんやりと思ったりした。
これから写真集刷りだしのため、いよいよ京都へ。完成ももうすぐだ。