装丁を進めていくにあたり、まず今回の写真集制作で印刷をお願いすることになったサンエムカラーの吉川和匡さんと造本の方向性を決めた。全体のページ数は決まっていたので、そこから僕がイメージしている写真集について話していく。
ページボリュームが相当になるだけに綴じは糸かがりにして開きやすさを大切にしたいこと。表紙の質感、本文用紙の手触り、色合い、厚さ、カバー等々。決めるべきことはいくつかもあったが、写真集制作に実績のある会社だけに吉川さんのアドバイスは的確で、徐々に本の形が目に見えるようになっていった。
同時に全体のデザインも進めた。基本的にシンプルな作りで、カバーには写真を、表紙には弁造さんのエスキースをあしらうことにした。
表紙のエスキースは弁造さんの死後見つけたもので、おそらく若いときに描いた女性のポートレートにした。鉛筆でざっと描かれたそれは、僕が出会ってからの弁造さんのタッチにはないもので、線のひとつひとつに伸びやかな勢いが感じられるものだ。
そのエスキースを実際に配してみると、想像した通り、とても素敵な表紙に思えた。そこに、これもまた遺品から見つけた弁造さんの自筆サインの和文、英文を配置した。今でもあまり見ることがない英文筆記体が新鮮だ。
カバーについては、ノギスで1mm、0.5mmと微妙に位置決めをしていく。これは本文の写真サイズと位置についても同じ作業。マージンとのバランス、ページをめくる手と指の位置を意識して、レイアウトを決めていった。
作業を進める過程で、吉川さんに「写真集の装丁って本当におもしろいですね」というと、吉川さんも「そりゃあもう、それが出来るって、作家としてこんな幸せなことないですよね」と笑顔で返してくれた。
この喜びも弁造さんからのギフトなのだろう。